顎関節症とは、あごの関節や、あごを動かす筋肉に不調が起こり、痛みや動かしにくさなどが現れる状態をいいます。

口を開け閉めするときに、
・あごが痛む
・カクカク音がする
・口が開けにくい
といった症状がみられるのが特徴です。

英語では Temporomandibular Disorders と呼ばれ、「TMD」と略されることもあります。

顎関節症は珍しい病気ではなく、ストレスや生活習慣とも関係しながら、多くの方にみられる身近な症状です。世界的な統計では、成人の約3割が何らかの顎関節症の症状を有するとされ、男性より女性に多くみられます。[1]

なぜ起こるの?

顎関節症は、ひとつの原因だけで起こることは少なく、いくつかの要因が重なって発症すると考えられています。

主な要因として、
・歯ぎしりや食いしばり
・かみ合わせの問題
・長時間のうつむき姿勢
・頬づえをつく習慣
・ストレスによる筋肉の緊張
・事故や転倒などによる外傷

などがあります。[2]

特に、無意識の食いしばりは、あごの関節や筋肉に大きな負担をかけることがあります。[2]

また、パソコンやスマートフォンを長時間使う姿勢によって、首や肩の筋肉が緊張し、あご周囲に負担がかかる場合もあります。

どんな症状が出るの?

代表的な症状には、次のようなものがあります。

・口を開けるとあごが痛む
・あごを動かすと音がする
・口が大きく開かない
・あごが疲れやすい、だるい

そのほか、
・こめかみの痛み
・耳の周囲の違和感
・頭が重い感じ
・首や肩のこり

などを伴うこともあります。

症状の強さや現れ方には個人差があります。

また、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すことも少なくありません。

どうやって診断するの?

診断では、症状の内容や生活習慣について詳しく確認します。

医師や歯科医師は、
・あごの動き
・口の開き具合
・痛みの場所
・関節の音

などを診察します。国際的には、こうした診察項目を標準化した「DC/TMD(顎関節症診断基準)」という評価方法が広く使われています。[1]

必要に応じて、レントゲンやMRIなどの画像検査を行い、関節や周囲の状態を確認することがあります。

これらの情報を総合して、顎関節症かどうかを判断します。

治療の基本

治療では、あごへの負担を減らし、症状を和らげることが基本になります。

まずは、
・強いかみしめを避ける
・硬い食べ物を控える
・姿勢を見直す
・頬づえを減らす

など、日常生活の工夫が重要です。

必要に応じて、
・鎮痛薬
・マウスピース療法
・理学療法

などが行われます。

多くの場合は、手術ではなく、こうした保存的な治療で改善が期待できます。

鍼灸は役立つの?

鍼灸は、顎関節症に対する補助的な方法として研究されています。

鍼やお灸の刺激によって、あごや首、肩まわりの筋肉の緊張がやわらぎ、血流が改善することで、痛みや動かしにくさの軽減につながる可能性があります。

一部の研究では、
・痛みの軽減
・口の開けやすさの改善

などが報告されています。複数の研究をまとめた解析では、通常の治療に鍼治療を追加した場合、追加しなかった場合と比べて、痛みの軽減や治療効果が得られやすいとする結果が示されています。[3][4]

ただし、研究の質は全体的に高くないと評価されており、より質の高い臨床試験が今後必要とされています。[3][4]

また、ストレスや緊張が強い方では、リラックスを目的として行われることもあります。

ただし、鍼灸だけで顎関節症を治すことは難しく、現在の医学では標準治療の代わりになるものではありません。

そのため、歯科や医療機関での治療と組み合わせながら、補助的に取り入れることが大切です。

受診の目安

次のような場合は、歯科や医療機関への相談をおすすめします。

・あごの痛みや違和感が数週間続く
・口が開きにくくなってきた
・食事や会話に支障がある
・痛みが強くなっている
・あごが動かなくなることがある

早めに相談することで、症状の悪化を防げる場合があります。

まとめ

顎関節症は、あごの関節や筋肉に負担がかかることで起こる、身近な症状です。

原因には、食いしばりや姿勢、ストレスなど、さまざまな要因が関係しています。[2]

治療では、生活習慣の見直しやマウスピース療法などの保存的治療が基本になります。

鍼灸は、筋肉の緊張や痛みをやわらげる補助的な方法として役立つ可能性がありますが、そのエビデンスの質には限界があります。[3][4]

症状が続く場合は、一人で我慢せず、歯科医師や医師に相談しながら、自分に合った方法を見つけていきましょう。

【脚注一覧】

[1] Alqutaibi AY, Alhammadi MS, Hamadallah HH, Altarjami AA, Malosh OT, Aloufi AM, Alkahtani LM, Alharbi FS, Halboub E, Almashraqi AA. Global prevalence of temporomandibular disorders: a systematic review and meta-analysis. J Oral Facial Pain Headache. 2025;39:48-65. doi:10.22514/jofph.2025.025.(27研究・20,971名を対象としたメタ解析。世界的な顎関節症の有病率は約29.5%と推計され、女性は男性の1.75倍罹患しやすい(36.7% vs 26.7%)。18歳未満で38.5%、18歳以上で34.1%と報告。診断は「Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders(DC/TMD)」という国際的に標準化された基準に基づくことが一般的)

[2] 標準的な歯科・口腔外科領域における顎関節症の病因論(多因子説・biopsychosocialモデル)に基づく一般的知見。歯ぎしりや食いしばり(パラファンクション)、心理社会的要因(不安・ストレス)、外傷などが素因・誘因・持続因子として関与するとされる(例:複数の横断研究で、ブラキシズムと不安が疼痛を伴う顎関節症と有意に関連することが報告されている)。

[3] Park EY, Cho JH, Lee SH, Kim KW, Ha IH, Lee YJ. Is acupuncture an effective treatment for temporomandibular disorder?: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Medicine (Baltimore). 2023;102(38):e34950. doi:10.1097/MD.0000000000034950.(32件の研究を対象とした系統的レビュー、うち22件・471例をメタ解析に組み入れ。実薬対照との比較で有効率・VASスコアともに有意な改善(有効率RR 7.00、VAS標準化平均差0.49)。他治療への追加(アドオン)としての鍼治療も、有効率(RR 1.36)・疼痛強度(平均差-1.23)ともに有意な改善を示した。ただしGRADE評価によるエビデンスの質は低〜非常に低いとされ、質の高い臨床試験が今後必要と結論)

[4] Di Francesco F, Minervini G, Siurkel Y, Cicciù M, Lanza A. Efficacy of acupuncture and laser acupuncture in temporomandibular disorders: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Oral Health. 2024;24(1):174. doi:10.1186/s12903-023-03806-1.(11件のRCTを対象としたシステマティックレビュー・メタ解析。筋原性の顎関節症疼痛に対して、鍼治療・レーザー鍼治療はプラセボ対照と比較して短期的な有効率が高いと報告。ただし著者らは、顎関節症の症状治療としての鍼治療のエビデンスは限定的であり、その治療的価値を確定づけるにはさらなる厳密な研究が必要と結論づけている)

・これらは、お知らせブログの過去の記事を転載したものです。
・過去の記事のため、一部内容を加筆・修正しています。
・2026年8月:脚注をAIを用いて追加しました。