腰痛は、世界中で非常に多くの人が経験する症状の一つです。
世界保健機関(WHO)や多くの国際研究でも、日常生活に支障をきたす主要な原因として知られています。[1]
多くの場合は命に関わるものではありませんが、生活の質に大きく影響します。

腰痛は「原因がはっきりしないもの」と「病気が原因のもの」に分けて考えることが大切です。

腰痛の主なタイプ

腰痛の多くは、画像検査でもはっきりした原因が見つからない「非特異的腰痛」です。
全体の約8〜9割を占めるとされています。[1]

筋肉や関節への負担や、姿勢、動き方のくせ、運動不足や使いすぎなどが重なって起こると考えられています。
このタイプは、動くと痛みが変化しやすく、安静で軽くなることが多いです。
多くは時間の経過とともに改善していきます。

一方で、まれに病気が原因の腰痛もあります。
全体の1〜3%程度とされています。[2]

例としては、骨折、感染症、がんの転移、強い神経圧迫、内臓の病気などがあります。
頻度は少ないですが、見逃すと重大な問題につながることがあるため注意が必要です。

注意が必要な腰痛のサイン

次のような症状がある場合は、早めの受診が必要です。

・安静にしても改善せず、夜間に強く痛む場合。
・原因不明の体重減少がある場合。
・発熱や寒気を伴う場合。
・足の強いしびれや力の低下がある場合。
・がんの治療中、または既往がある場合。
・転倒や強い衝撃のあとから痛みが続く場合。
・尿や便が出にくい、失禁がある場合。
・腹痛や吐き気を伴う場合。

特に排尿や排便の異常を伴う腰痛は、緊急性がある可能性があります。[2]

画像検査と腰痛の関係

画像検査で椎間板ヘルニアなどの所見が見つかっても、それが必ずしも痛みの原因とは限りません。
症状の経過や身体の状態、生活背景などを総合的に見て判断することが大切です。[3]

治療の基本

多くの腰痛は、次のような保存的な方法で改善が期待できます。

・日常生活の工夫と姿勢の見直し。
・無理のない範囲での運動やストレッチ。
・物理療法やリハビリテーション。
・必要に応じた鎮痛薬の使用。

「安静にしすぎないこと」も回復には重要とされています。[4]

鍼灸は役立つの?

鍼灸は、主に非特異的腰痛に対する補助的な方法として用いられています。

筋肉の緊張をゆるめたり、血流を改善したり、痛みの感じ方に関わる神経の働きを調整することで、症状の軽減が期待されることがあります。

鍼灸の位置づけは、国際的な診療ガイドラインの間でも評価が分かれています。[5]

米国内科学会のガイドラインでは、急性・慢性いずれの腰痛に対しても、鍼治療を運動療法などと並ぶ非薬物療法の選択肢の一つとして挙げています。[5]

一方、英国の医療機関向けガイドライン(NICE)では、腰痛そのものへの治療としては鍼治療を推奨していません。ただし、慢性的な痛みが「腰痛」という診断名だけでは説明しきれないほど広く生活に影響している場合(慢性一次性疼痛)には、鍼治療を検討してよいとする、より新しい別のガイドラインもあります。[5]

このように、鍼灸の腰痛への効果については、研究や評価する立場によって見解に幅があるのが実情です。

ただし、効果には個人差があります。
また、骨折や感染症、がんなどが疑われる場合には、鍼灸だけで対応することは適切ではありません。
必ず医療機関で原因を確認することが大切です。

生活で気をつけたいこと

腰痛の予防や改善には、日常生活の工夫が重要です。

・長時間同じ姿勢を避けること。
・適度に体を動かすこと。
・急な無理な動作を避けること。
・体重や筋力のバランスを整えること。

「動かさなすぎ」と「動かしすぎ」のどちらも避けることが大切です。[4]

まとめ

腰痛の多くは、筋肉や生活習慣などが関係する非特異的なものです。
一方で、まれに重大な病気が隠れていることもあります。

そのため、危険なサインを見逃さず、状態に合った対応をすることが重要です。
鍼灸は補助的な方法として役立つ場合がありますが、まずは正しい評価と適切な治療が基本になります。

不安がある場合は、一人で抱え込まず医療機関に相談することが大切です。

【脚注一覧】

[1] World Health Organization. Low back pain. Fact sheet, updated March 2024(最終改訂を反映)。2020年時点で世界の6億1,900万人が腰痛を抱えており、2050年には8億4,300万人に達すると推計。非特異的腰痛が全症例の約90%を占め、腰痛は世界的に見て障害を引き起こす単一の最大要因(leading cause of disability worldwide)であるとの記載。

[2] Bardin LD, King P, Maher CG. Diagnostic triage for low back pain: a practical approach for primary care. Med J Aust. 2017;206(6):268-273.(腰痛を「非特異的腰痛(約90〜95%)」「神経根症状を伴う腰痛」「重篤な脊椎病理を示唆する腰痛(約1〜5%、骨折・感染症・悪性腫瘍・馬尾症候群などを含む)」の3群に分類する診療トリアージの考え方、および膀胱直腸障害を伴う場合は馬尾症候群を示唆する緊急性の高いred flagであるとする記載)

[3] Brinjikji W, Luetmer PH, Comstock B, Bresnahan BW, Chen LE, Deyo RA, Halabi S, Turner JA, Avins AL, James K, Wald JT, Kallmes DF, Jarvik JG. Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations. AJNR Am J Neuroradiol. 2015;36(4):811-816.(無症状の成人においても、椎間板変性・膨隆などの画像所見は年齢とともに高頻度にみられ(20歳代で椎間板変性37%、80歳代で96%など)、画像所見と症状は必ずしも一致しないと報告したシステマティックレビュー)

[4] National Institute for Health and Care Excellence. Low back pain and sciatica in over 16s: assessment and management. NICE guideline NG59. First published 2016, last updated 2020.(急性・慢性を問わず、日常生活を継続しながら痛みの範囲内で活動的に過ごすことを推奨する治療方針に関する記載)

[5] Qaseem A, Wilt TJ, McLean RM, Forciea MA; Clinical Guidelines Committee of the American College of Physicians. Noninvasive treatments for acute, subacute, and chronic low back pain: a clinical practice guideline from the American College of Physicians. Ann Intern Med. 2017;166(7):514-530.(急性・亜急性腰痛では鍼治療を含む非薬物療法を初期治療の選択肢として推奨し、慢性腰痛でも運動療法・鍼治療・集学的リハビリなどを第一選択の非薬物療法として推奨。鍼治療は疼痛について中等度の改善効果を示したと評価)

National Institute for Health and Care Excellence. Low back pain and sciatica in over 16s: assessment and management. NICE guideline NG59. First published 2016, last updated 2020.(「腰痛の管理に鍼治療を提供しないこと」と明記し、腰痛・坐骨神経痛に対する鍼治療を推奨していない)

National Institute for Health and Care Excellence. Chronic pain (primary and secondary) in over 16s: assessment of all chronic pain and management of chronic primary pain. NICE guideline NG193. Published April 2021.(慢性一次性疼痛に対しては、単回コースの鍼治療を検討することを推奨。腰痛が慢性一次性疼痛に該当すると判断される場合に適用されうる)

・これらは、お知らせブログの過去の記事を転載したものです。
・過去の記事のため、一部内容を加筆・修正しています。
・2026年8月:脚注をAIを用いて追加しました。