灸は、鍼と比べると全体として体を補う性質が強い治療法と考えられています。

しかし、鍼に補法と瀉法があるように、灸にも補と瀉の考え方があります。

補の灸は、もぐさに火をつけた後、そのまま自然に燃え尽きるまで待つ方法です。

熱は比較的やわらかく、冬の日差しのような穏やかな温かさを感じる施灸法とされています。

この方法では、よく乾燥した良質のもぐさをやわらかくひねり、皮膚に軽く接触させて据えます。

また、前の施灸で残った灰の上から続けて据える方法が用いられます。

もぐさは小さめに作り、高さを高く、底面を狭くするのが特徴です。

施灸回数(壮数)を少なくすることも補の方法とされています。

瀉の灸は、もぐさに火をつけた後、自然に燃え尽きる前に風を送って消火する方法です。

熱感は比較的強く、真夏の日差しのような熱さを与える施灸法とされています。

この方法では、もぐさを硬めにひねり、皮膚にしっかり密着させて据えます。

また、燃えた後の灰を毎回取り除きながら施灸します。

もぐさは低めに作り、底面を広くするのが特徴です。

施灸回数を多くすることも瀉の方法とされています。

参考 灸の瞑眩(めんげん)

古い灸の文献には、施灸後に一時的な体調の変化が現れることがあると記されています。

『続名家灸選』では、施灸後に次のような症状が現れる場合があると述べています。

  • 寒気や熱感
  • 耳鳴り
  • めまい
  • 頭痛
  • 口や唇の乾燥
  • 胸や腹のつかえ
  • 食欲の変化

同書では、これらが一時的な反応として現れ、その後に体調が整う場合には、施灸の作用が十分に現れた状態と考えています。

一方で、特定の脈の状態がみられる場合には、施灸を避けるべきであるとも記されています。

刺激による生体反応

大谷彬亮博士の『刺激療法』では、施灸などの刺激に対する体の反応を、「陽性相(Positive Phase)」と「陰性相(Negative Phase)」に分けて説明しています。

① 陽性相(Positive Phase)

陽性相では、次のような変化がみられるとされています。

  • 症状の軽減
  • 気分の爽快感
  • 食欲の増進
  • 睡眠状態の改善
  • 白血球数の増加
  • 赤血球沈降速度の変化

全体として、治療による良好な反応が現れている状態と考えられています。

② 陰性相(Negative Phase)

陰性相では、次のような反応が現れることがあります。

  • 全身のだるさ
  • 頭痛
  • 筋肉痛
  • 関節痛
  • 食欲低下
  • 不眠
  • 吐き気
  • 嘔吐

一見すると症状が悪化したように感じられますが、軽度で短時間のものであれば、一時的な反応と考えられていました。

こうした反応は施灸後1~2時間ほどで現れ、5~6時間程度続き、多くは24時間以内におさまるとされています。

その後、陽性相へ移行すると考えられていました。

刺激の強さと体の反応

『刺激療法』では、刺激の強さによって体の反応が変わることも述べられています。

  • 適度な刺激では、早く症状の軽減がみられる。
  • 刺激が強すぎると、寒気やふるえ、高熱などが現れることがある。
  • 非常に強い刺激では、虚脱状態となり、体温が低下することがある。
  • 過度ではない範囲の強い刺激では、数日後に良好な反応が現れ、それまでの熱症状が軽減することがある。

これらは、刺激の量と体の反応との関係を理解するための歴史的な考察として記録されています。

参考文献:柳谷素霊『鍼灸の実技』(昭和三十四年)

※瞑眩や陽性相・陰性相に関する説明は、当時の鍼灸理論や刺激療法の考え方にもとづくものです。
 現代医学において必ずしも同じ解釈が共有されているわけではありません。