術後イレウスとは、手術のあとに腸の動きが一時的に弱くなり、食べ物やガス、便がうまく進まなくなる状態をいいます。

特に、
・胃
・大腸
・小腸
など、お腹の手術のあとに起こりやすいことが知られています。

多くは手術後に一時的にみられる反応ですが、回復が遅れると、強い腹部症状につながることがあります。
術後には一時的に腸の動きが低下しますが、多くは数日以内に回復します。
回復が遅れたり、いったん回復したあとに症状が悪化したりする場合には、術後イレウスなどの可能性を考えて評価します。[1]

なぜ起こるの?

手術を受けると、体にはさまざまな負担がかかります。

術後イレウスは、
・手術による腸への刺激
・炎症反応
・麻酔の影響
・痛みやストレス
・活動量の低下
・水分や電解質の乱れ
などが重なり、腸の動きが低下することで起こると考えられています。神経系の反応、炎症反応、鎮痛に使われるオピオイド系の薬による腸の動きの抑制など、複数の仕組みが複雑に関わっていると考えられています。[2]

また、
・強い炎症
・腹膜への刺激
・術後の癒着
などによって、腸の通りが悪くなる場合もあります。

特に、
・長時間の手術
・開腹手術
・腸を大きく操作する手術
では起こりやすいとされています。高齢であること、開腹手術(腹腔鏡下手術より)、手術時間が長いこと、周術期に使用するオピオイド量が多いことなどが、危険因子として報告されています。[2]

どんな症状が出るの?

主な症状は、

・お腹の張り
・腹部膨満感
・吐き気
・嘔吐
・食欲低下
・腹痛
・おならや便が出にくい

などです。

腸がほとんど動いていない場合には、強い張り感や不快感が続くことがあります。

どうやって診断するの?

診断では、

・いつから症状が出たか
・便やガスが出ているか
・吐き気や腹痛の程度

などを確認します。

診察では、
・お腹の張り
・圧痛
・腸の音
などを調べます。

必要に応じて、

・腹部レントゲン検査
・CT検査

を行い、腸の動きやガスのたまり方を確認します。

また、
・腸閉塞
・感染症
・縫合部のトラブル
など、他の原因が隠れていないかも慎重に評価します。
術後イレウスは、こうした他の病気を除外したうえで判断される、臨床的な診断です。[3]

治療の基本

治療の基本は、腸を休ませながら自然な回復を待つことです。

多くの場合、

・食事を一時的に控える
・点滴で水分や栄養を補う
・早めに体を動かす

などが行われます。

必要に応じて、

・腸の動きを助ける薬
・吐き気止め

などが使用されます。

嘔吐やお腹の張りが強い場合には、鼻から胃へ管を入れて、胃や腸の内容物を外へ出す処置が行われることもあります。

近年では、手術後にできるだけ早く歩くことや、早期のリハビリが、回復を助けると考えられています。
国際的には、こうした早期離床や早期の経口摂取などをまとめた「ERAS(術後回復強化)プログラム」という多角的な周術期管理の考え方が広がっており、術後イレウスの予防にも役立つとされています。
ただし、早期離床だけを単独で行った場合の効果については、研究によって結果が一致しない部分もあります。[2][4]

多くは数日ほどで改善しますが、回復には個人差があります。

鍼灸は役立つの?

鍼灸は、術後イレウスに対する補助的な方法として研究されています。

研究では、鍼刺激によって、

・自律神経の働きを整える
・腸の動きを促す
・吐き気や腹部不快感を軽くする

可能性が示されています。

一部の研究では、

・おならが出るまでの時間が短くなる
・食事再開までが早まる

といった報告もあります。
大腸がんの手術を受けた患者を対象とした系統的レビュー(22件のRCT・1,628例)では、鍼治療を追加することで、腸の音が戻るまで、初めてガスが出るまで、初めて排便があるまでの時間が短縮したと報告されています。
この傾向は、より質の高い偽鍼対照試験(4件・281例)でも、それ以外の試験(17件・1,265例)でも、同じように認められました。[5]

特に、『足三里(あしさんり)』などの経穴への刺激について研究が行われています。
複数の研究をまとめた解析(17件のRCT)では、この経穴、または手首内側の『内関』への電気鍼によって、ガスが出るまでの時間が平均5時間ほど、排便までの時間が平均12時間ほど短縮したとする報告があります。[6]

ただし、研究結果にはばらつきがあり、すべての方に同じ効果が確認されているわけではありません。
含まれる研究の多くは、鍼を刺したかどうかが患者に分からないようにする「盲検化」が行われていないなど、研究の質に課題があると評価されています。[5]

また、鍼灸だけで腸閉塞や重い合併症を治すことはできません。

術後は体調が不安定な時期でもあるため、必ず主治医と相談しながら、安全を優先して行うことが重要です。

受診の目安

次のような症状がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。

・お腹の張りが強くなっている
・吐き気や嘔吐が続く
・おならや便がまったく出ない
・強い腹痛がある
・発熱を伴う
・食事や水分がとれない

退院後でも、症状が悪化した場合は自己判断せず、手術を受けた医療機関へ連絡することが大切です。

まとめ

術後イレウスは、手術後に腸の動きが低下して起こる状態です。
多くは数日以内に自然に改善しますが、回復には個人差があります。[1]

多くは一時的で、適切な管理によって改善しますが、腸閉塞など重い病気との区別が重要になります。[3]

治療では、腸を休ませながら回復を待ち、必要に応じて薬や処置を行います。早期離床などを含む多角的な周術期管理(ERAS)が、回復を助けると考えられています。[2][4]

鍼灸は、腸の動きや不快感を整える補助的な方法として研究されていますが、標準治療の代わりになるものではありません。[5][6]

手術後の症状が続く場合は、無理をせず、医療機関へ相談しましょう。

【脚注一覧】

[1] Liu Y, May BH, Zhang AL, Guo X, Lu C, Xue CC, Zhang H. Acupuncture and Related Therapies for Treatment of Postoperative Ileus in Colorectal Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Evid Based Complement Alternat Med. 2018;2018:3178472.(序論部分で、術後イレウスは腹部膨満・疼痛・吐き気嘔吐を伴いうる状態であり、長引いたり再発したりすることがあると整理。ただし、術後イレウスの診断に用いる時間的基準は研究によって異なり(例:術後4日以上、または3〜7日等)、国際的に統一された定義は確立していない点に留意が必要)

[2] Wisely JC, et al. / 複数の総説に基づく整理:Postoperative ileus: pathophysiology, current status and future directions/Multidisciplinary Postoperative Ileus Management: A Narrative Review. J Clin Med. 2025.(術後イレウスの病態は神経性・炎症性・オピオイド関連の運動抑制など多因子性であるとし、高齢、開腹手術、長時間手術、周術期オピオイド使用量の多さなどを危険因子として整理する総説)

[3] 複数の外科系総説に基づく一般的知見(例:Postoperative ileus. ScienceDirect Topics).(術後イレウスは、腸閉塞や縫合不全などの器質的合併症を除外したうえで診断される臨床診断であるとする、外科領域で広く共有される考え方)

[4] Fiore JF Jr, et al. の早期離床に関するRCT、および ERAS Society関連ガイドラインに基づく整理(例:The Impact of Early Mobilization on Post-Operative Ileus: A Systematic Review, 2025).(ERASプログラムは早期離床・早期経口摂取などを含む多角的な周術期管理として広く推奨される一方、早期離床単独の効果を検証したRCTでは、歩行能力や退院基準達成、消化管機能の回復について明確な改善を示せなかったとする報告もあり、単独介入としての効果は議論の余地があるとされる)

[5] 前掲:Liu Y, May BH, Zhang AL, Guo X, Lu C, Xue CC, Zhang H. Evid Based Complement Alternat Med. 2018;2018:3178472.(22件のRCT・1,628例を対象とした系統的レビュー・メタ解析。鍼治療の追加により、腸音回復・初回排ガス・初回排便までの時間が有意に短縮。盲検化された質の高い4件のRCT〔281例〕、非盲検の質の低い17件のRCT〔1,265例〕のいずれでも、同様の結果が得られた。最も質の高いエビデンスは、経穴「足三里(ST36)」への電気鍼によるものであったと結論)

[6] Kao TW, Lin J, Huang CJ, Huang YC, Tsai TJ. Electroacupuncture of ST36 and PC6 for postoperative gastrointestinal recovery: A systematic review and meta-analysis. J Tradit Complement Med. 2024;14(6):666-674. doi:10.1016/j.jtcme.2024.03.014. PMID:39850598.(17件のRCTを対象とした系統的レビュー・メタ解析。ST36〔足三里〕またはPC6〔内関〕への電気鍼により、初回排ガスまでの時間〔平均差-5.06時間、95%信頼区間-7.12〜-3.01〕、初回排便までの時間〔平均差-12.29時間、95%信頼区間-20.64〜-5.21〕が有意に短縮した。対象症例数〔1,758例〕、および術後悪心嘔吐に関する結果〔RR 0.62、95%信頼区間0.49-0.78〕については、今回複数の独立した情報源での直接確認ができておらず、未検証情報として扱っている点にご留意ください)

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・2026年8月:脚注をAIを用いて追加しました。