有痕灸とは、皮膚の上に直接もぐさを置いて火をつけるお灸の方法です。
一見すると簡単そうに見えますが、安全かつ適切に行うためには十分な練習が必要です。
特に次のような基本技術を身につけておくことが大切です。
- もぐさのつまみ方と作り方
- 皮膚への置き方
- 線香から火を移す方法
- 燃焼中の扱い方
- 燃えた後の灰の処理
1.もぐさのつまみ方と作り方
まず、散らしたもぐさを左手に持ちます。
このとき、一度にたくさん持ちすぎない方が扱いやすくなります。
もぐさは小指、薬指、中指で軽く支えながら持ちます。
次に、もぐさを親指と人差し指の先へ運びます。
指の腹を使って、ごく軽くひねりながら形を整えます。
強くひねると繊維が切れてしまうため、力を入れすぎないことが大切です。
全体が均一になるように、やさしくより合わせていきます。
人差し指の腹の上を親指の腹が往復するように動かすと、きれいにまとまりやすくなります。
作業を続けると、もぐさは指先でまとまり、先端が指の間から出てきます。
その部分を右手の親指と人差し指、またはピンセットでつまみ、皮膚の上に置きます。
皮膚が乾燥していると、もぐさは付きにくくなります。
そのため、あらかじめ皮膚を少し湿らせておきます。
消毒用アルコールなどを使う方法が一般的です。
もぐさの大きさにはさまざまな種類があります。
- 糸のように細いもの
- 半米粒大
- 米粒大
- 小豆大
- 大豆大
糸状のもぐさは、米粒大の約八分の一ほどの大きさで、木綿糸程度の太さが目安です。
このような小さなもぐさを扱う際は、ピンセットを使うと安全です。
半米粒大以上のもぐさでは、できるだけ形をそろえることが重要です。
特に次の点をそろえるようにします。
- 高さ
- 直径
- 重さ
- 硬さ
- 底面の大きさ
形は円柱形または円すい形に整えます。
作る速さの目安は、米粒大で1分間に約60個です。
慣れてくると、1分間に100個近く作れるようになります。
古くからの考え方では、瀉法では硬めにひねり、補法では柔らかくひねるとされていました。
2.もぐさを皮膚につける方法
乾いた皮膚にそのまま置いても、もぐさは付きにくくなります。
そのため、最初は皮膚やもぐさの底を少し湿らせてから置きます。
昔は、もぐさを口で湿らせる方法もありましたが、現在では衛生面から行われません。
代わりに、消毒液を含ませたスポンジや消毒綿を使います。
ツボに軽く当てた後、もぐさを植えるように置きます。
二つ目以降は、燃えた後の灰が残っていれば、湿らせなくても付くことがあります。
ただし、瀉を行う場合は灰を取り除くため、その都度皮膚を湿らせる必要があります。
もぐさを作って置く速さの目安は、1分間に約40個です。
手が脂っぽい場合や汗ばんでいる場合は、もぐさが皮膚ではなく指に付いてしまうことがあります。
そのような場合は、滑り止めの粉やピンセットを使用します。
3.線香の火をもぐさに移す方法
線香から火を移すときにも注意が必要です。
線香の先に灰が付いたままだと、火がうまく移らないことがあります。
そのため、燃えている部分をもぐさの上に近づけて着火します。
線香を軽く回しながら火を移すと、もぐさが線香に付着するのを防ぎやすくなります。
また、線香の灰はこまめに落としておきます。
火は必ずもぐさの上から付けます。
横から火を付けると、もぐさが倒れることがあるためです。
小さな動作ですが、安全に行うための大切なポイントです。
4.燃えている間の注意
もぐさが燃えている間の扱い方は、補と瀉で異なります。
補の場合は、そのまま燃え切らせるか、燃え終わる直前に指で消します。
また、熱を和らげるための器具を使って消す方法もあります。
瀉の場合は、火が消えそうになったところで息や風を送って消します。
なお、患者さんが強い熱さや痛みを感じている場合には、途中で取り除くこともあります。
5.燃えた灰の処理
補の場合は、燃えた灰をそのまま残し、その上に次のもぐさを置きます。
瀉の場合は、毎回灰を取り除いてから次のもぐさを置きます。
すべてのお灸が終わった後は、皮膚を消毒します。
これは安全のために大切な処置です。
参考文献:柳谷素霊『鍼灸の実技』(昭和三十四年)
