管鍼を使う流派である杉山流では、昔から「弾入」という技術が非常に重視されてきました。
弾入とは、鍼管の上から鍼柄を軽く弾き、鍼先を皮膚へ通す切皮技術のことです。
これは単に鍼を入れる動作ではなく、皮膚へ刺激を与える大切な操作です。
技術が未熟だと、
- 痛み
- 不快感
- 不必要な刺激
を患者さんに与えてしまいます。
そのため、十分に練習し、「痛みの少ない弾入」ができなければ、鍼管を使う意味はないと考えられてきました。
昔から、
尺八の「首振り三年」、と同じように「皮切り三年」
と言われるほど、この練習は重要視されていました。
1.弾入の効用
現在、管鍼法は日本だけでなく、海外の鍼治療家にも広まりつつあります。
もともと鍼管を使う目的は、
「皮膚を通るときの痛みを減らすこと」
にあります。
そのために工夫されたのが管鍼法です。
つまり、鍼管を使っていても痛みが強いのであれば、本来の目的を果たしていないことになります。
管鍼法の本来の価値は、
- 痛みを少なくすること
- 患者さんへの負担を減らすこと
にあります。
しかし、
- 技術が未熟
- 無理に強く弾く
- 雑な操作をする
と、強い痛みや不快感を与えてしまいます。
2.弾入の仕方
弾入を行うときは、刺鍼や抜鍼と同じように、
- 下腹部、気海丹田に力を入れる
- 姿勢を正す
- 体を安定させる
- 呼吸を整える
- 精神を集中させる
ことが重要です。
通常は、鍼管から出ている鍼柄の頭に向かって、指先がまっすぐ垂直に当たるように弾きます。
このとき、
- 肩
- 肘
- 手首
- 指
の動きが自然に連動している必要があります。
弾く指の使い方
弾き方には主に二種類あります。
1)示指を中指に乗せる方法
人差し指を中指の背に乗せて弾力をつけ、鍼柄を弾きます。
2)示指だけで弾く方法
人差し指をほかの指から離し、人差し指だけで弾きます。
どちらの場合も、腕全体を柔らかく使うことが大切です。
弾入のポイント
指先が鍼柄に対して垂直に当たらないと、
- 力がうまく伝わらない
- 不自然な刺激になる
- 痛みが出やすくなる
とされています。
一回で弾き入れる方法もありますが、一般的には数回に分けて弾きます。
故吉田弘道先生は、
- 最初は弱く
- 次に少し強く
- 最後にやや強く
というように、リズムをつけて弾くよう指導していました。
また、弾入も刺激の一つなので、
- 治療の目的
- 患者さんの状態
によって方法を変える必要があります。
昔は「浮水六法」という練習法も行われていました。
3.正しい弾入と誤った弾入
ここでは、痛みが出やすい誤った弾入について説明します。
1)斜めに弾く
力が斜めに加わると、
- 力が無駄になる
- 鍼がゆがむ
- 痛みが出やすくなる
とされています。
2)強く叩く
叩くような強い弾入は痛みにつながります。
3)力が強すぎる
必要以上に強く弾くと痛みが出ます。
4)力が弱すぎる
逆に弱すぎても、皮膚をうまく通れず痛みが出ます。
5)速さが合っていない
患者さんの感覚に合わない速さでも痛みが出やすくなります。
6)鍼の弾力を超える力
鍼のしなり以上の強い力を加えると、
- 痛み
- 鍼の変形
が起こります。
そのため、弾く力は鍼の弾力より少し弱い程度がよいとされています。
また、鍼の太さによっても調整が必要です。
7)腕を固くする
腕や関節を固くしたまま弾くと痛みが出ます。
肩・肘・手首を柔らかく使い、自然な弾みで行うことが大切です。
8)指の動きが逆になる
鍼柄を弾くときは、
指を上げる動きは、下す時よりも速く必要があります。
逆になると痛みが出やすくなります。
9)衝撃が広がる
たとえば、左手を太ももに置き、右手で左手を弾いたときに、
衝撃が広く伝わるようでは痛みが出やすいとされます。
理想は、衝撃が一点へ深く伝わる感覚です。
10)硬い感触がある
弾入時に、指先へ非常に硬い感触が返ってくる場合は、痛みが出やすいため、いったん中止したほうがよいとされています。
4.浮水六法
杉山真伝流では、弾入の速度・回数・強弱の組み合わせを「浮水六法」と呼んでいます。
1)遅
二回の呼吸で一回弾く程度のゆっくりした速さで、約四回行います。
2)緩
一回の呼吸で三回ほど弾き、五回で弾入する方法です。
3)数
一回の呼吸で七回から十二回ほど弾く速さで、六回で弾入します。
4)軽
軽い力で、素早く弾き入れる方法です。
5)重
重い力で、ゆっくり弾き入れる方法です。
これらを組み合わせて、
- 軽遅
- 軽緩
- 軽数
- 重遅
- 重緩
- 重数
などの方法になります。
これらは、
- 患者さんの体質
- 感受性
- 部位
- 病状
などに応じて使い分けられてきました。
弾入を行わない方法
故小西常太郎氏は、大阪で有名な鍼の名人でした。
小西氏は、管鍼で弾く方法を「大工仕事のようだ」と考え、弾入を行いませんでした。
代わりに、
- 鍼先を鋭く研ぐ
- 鍼管の上から静かに押し込む
ことで、痛みなく皮膚を通していました。
このことからも、
- 鍼先の状態
- 鍼と鍼管の関係
が非常に重要であることが分かります。
参考文献:柳谷素霊『鍼灸の実技』(昭和三十四年)
