テニス肘とは、肘の外側に痛みが出る状態で、正式には上腕骨外側上顆炎と呼ばれます。
テニスをする方に多いことからこの名前がありますが、実際にはスポーツをしていない方にもよくみられます。
特に、
・パソコン作業
・家事
・料理
・工具作業
・育児
など、手首や指を繰り返し使う方に起こりやすい病気です。
40〜60代で多くみられます。年間の発症率は成人の1〜3%程度とされ、35〜59歳での発症が最も多いとされています。[1]
なぜ起こるの?
肘の外側には、手首や指を伸ばす筋肉の腱が付いています。
テニス肘では、この部分に繰り返し負担がかかることで、小さな損傷や組織の変性が起こり、痛みが出ると考えられています。
以前は「炎症」が中心と考えられていましたが、現在では、細かな傷の積み重ねによる腱の変性が関係していると考えられています。実際に、テニス肘の組織を顕微鏡で調べても、急性・慢性の炎症所見ははっきりせず、血管新生を伴う線維芽細胞の増生(腱の変性)が主体であることが分かっています。[2]
関係しやすい要因には、次のようなものがあります。
・手首を反らす動作の繰り返し
・重い物を持つ作業
・長時間のパソコン作業
・スポーツでのフォーム不良
・筋力低下や柔軟性低下
・加齢による腱の変化
喫煙や肥満、1日2時間以上の反復動作、20kgを超える重量物の取り扱いなども、危険因子として報告されています。[3]
テニスでは、バックハンド動作が負担になることがあります。
どんな症状が出るの?
主な症状は、肘の外側の痛みです。
特に、
・物をつかんで持ち上げる
・タオルを絞る
・ドアノブを回す
・フライパンを持つ
・ペットボトルを開ける
などの動作で痛みが強くなります。
初期は「使ったあとだけ痛い」程度でも、悪化すると、
・軽い動作でも痛む
・握力が低下する
・腕全体がだるい
などの症状が出ることがあります。
安静時にはあまり痛みがない場合もあります。
どうやって診断するの?
診断は、症状の特徴と診察によって行われます。
医師は、
・どの動作で痛むか
・どこを押すと痛いか
・筋力や可動域
などを確認します。
特に、
・手首を反らす動作
・物を持ち上げる動作
で痛みが誘発されることが特徴です。
必要に応じて、
・レントゲン
・超音波検査
・MRI
などを行い、
・肘関節の病気
・神経障害
・腱断裂
など、他の病気が隠れていないか確認します。
治療の基本
治療の基本は、「負担を減らしながら回復を待つこと」です。
多くの場合は、手術をしない保存療法で改善が期待できます。
生活や作業の調整
まず大切なのは、負担の原因を減らすことです。
・同じ動作を繰り返しすぎない
・重い物を無理に持たない
・作業中に休憩を入れる
・手首を反らしすぎない
などを意識します。
リハビリ・運動療法
現在は、ストレッチや筋力トレーニングが重要と考えられています。
特に「伸張性運動(エキセントリック運動)」という方法が、腱の回復を助ける可能性があるとされています。複数の研究をまとめた系統的レビューでは、こうした運動を治療プログラムに取り入れた場合、痛みの軽減や機能・握力の改善につながったと報告されています。[4]
前腕の柔軟性改善も大切です。
装具
肘バンドやサポーターを使用して、腱への負担を軽減することがあります。
薬物療法
必要に応じて、
・NSAIDs(消炎鎮痛薬)
・湿布
・外用薬
などが使われます。
痛みが強い場合には、ステロイド注射が行われることもあります。
ただし、ステロイド注射は短期的には効果があっても、長期的には再発しやすくなる可能性があるため、慎重に判断されます。
その他の治療
慢性化した場合には、
・体外衝撃波治療
・PRP療法
などが検討されることもあります。
鍼灸は役立つの?
鍼灸は、テニス肘に対する補助的な方法として利用されることがあります。
期待されている作用には、
・前腕の筋緊張をやわらげる
・血流を促す
・痛みの感じ方を調整する
・動かしやすさを改善する
などがあります。
一部の研究では、短期的な痛みの軽減や機能改善が報告されています。複数の研究をまとめた解析では、鍼治療は、薬物療法やブロック注射療法と比較しても、痛みの軽減において優れていたとする結果が示されています。[5]
ただし、研究結果にはばらつきがあり、鍼灸だけで根本的に治ることが十分証明されているわけではありません。対象となった研究の質は全体的に高くないと評価されており、より大規模で質の高い臨床試験が今後必要とされています。[5]
そのため、
・運動療法
・生活調整
・医療機関での治療
と組み合わせて行うことが大切です。
受診の目安
次のような場合は、医療機関への相談が勧められます。
・肘の痛みが数週間以上続く
・日常生活に支障がある
・握力が低下している
・痛みが徐々に強くなっている
・安静にしていても痛む
・しびれを伴う
神経の病気や、別の肘の障害が隠れていることもあります。
日常生活で気をつけたいこと
再発予防には、日常の使い方を見直すことが大切です。
・長時間同じ動作を続けない
・作業の合間に休憩する
・前腕のストレッチを行う
・道具の持ち方を工夫する
・痛みを我慢して無理をしない
特に「少し痛いけれど使い続ける」を繰り返すと、慢性化しやすくなります。
まとめ
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)は、手首や指の使いすぎによって起こりやすい肘の痛みです。[1]
治療では、
・負担の調整
・運動療法
・装具
・必要に応じた薬物療法
などを組み合わせながら改善を目指します。[4]
鍼灸は、筋緊張や痛みを和らげる補助的な方法として役立つ可能性がありますが、そのエビデンスの質には限界があります。[5]
症状が長引く場合や悪化している場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。
【脚注一覧】
[1] Sanders TL Jr, Maradit Kremers H, Bryan AJ, Ransom JE, Smith J, Morrey BF. The epidemiology and health care burden of tennis elbow: a population-based study. Am J Sports Med. 2015;43(5):1066-1071. doi:10.1177/0363546514568087.(米国ミネソタ州オルムステッド郡、約144,000人を対象とした13年間(2000〜2012年)の人口ベース疫学研究。年齢・性別調整済みの年間発症率は、2000年の1,000人あたり4.5例から2012年には1,000人あたり2.4例へと有意に減少(P<.001)。診断された5,867例のうち、2年以内の再発率は8.5%、手術に至った例は1.6%(89例)であった。右手が63%、左手が25%、両手罹患が12%を占めた)
[2] Kraushaar BS, Nirschl RP. Tendinosis of the elbow (tennis elbow). Clinical features and findings of histological, immunohistochemical, and electron microscopy studies. J Bone Joint Surg Am. 1999;81(2):259-278.(組織学的検討により、テニス肘は炎症所見に乏しく、血管新生を伴う線維芽細胞増生(血管線維芽細胞性変性)を特徴とする「腱症(tendinosis)」であることを示した基礎研究)
[3] StatPearls: Lateral Epicondylitis (Tennis Elbow). NCBI Bookshelf, 2023.(喫煙、肥満、1日2時間以上の反復動作、20kg超の重量物取り扱いなどが一般人口における危険因子として報告されている)
[4] Cullinane FL, Boocock MG, Trevelyan FC. Is eccentric exercise an effective treatment for lateral epicondylitis? A systematic review. Clin Rehabil. 2014;28(1):3-19.(12件の研究(うちRCT8件、334例)を対象とした系統的レビュー。エキセントリック運動を含む治療群はいずれも、治療後に痛みの軽減、機能・握力の改善を認めたと報告。ただし研究間で運動プロトコルにばらつきがあり、他の治療法と比較して明確に優れているとまでは言えない点も指摘されている)
[5] Zhou Y, Guo Y, Zhou R, Wu P, Liang F, Yang Z. Effectiveness of Acupuncture for Lateral Epicondylitis: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Pain Res Manag. 2020;2020:8506591. doi:10.1155/2020/8506591.(複数のRCTを対象としたメタ解析。鍼治療は薬物療法(2件のRCT、n=144、p<0.00001)、ブロック注射療法(2件のRCT、n=132、p=0.03)と比較して痛みスコア(VAS)で有意に優れていた。偽鍼との比較でも改善傾向が見られたが有意差には至らなかった(2件のRCT、n=92、p=0.18)。著者らは、含まれた試験の質が低いため、より大規模で質の高いRCTが今後必要と結論づけている)
・これらは、お知らせブログの過去の記事を転載したものです。
・過去の記事のため、一部内容を加筆・修正しています。
・2026年8月:脚注をAIを用いて追加しました。
