有痕灸は、その目的や方法によって、主に次の三つに分けられます。
- 透熱灸
- 焦灼灸
- 打膿灸
それぞれ目的が異なるため、施灸の方法にも違いがあります。
1.透熱灸
透熱灸は、一般に「普通のお灸」として知られている方法です。
名前のとおり、熱を体の深部までしっかり伝えることを目的とした有痕灸です。
主に次のような場所に施灸します。
- 神経や血管が通っている部分
- 押すと痛みがある部分
- ツボ
例えば、
- 顔の症状には合谷
- 痔の症状には孔最や百会
- 胃のけいれんには胃兪、梁丘、足三里
- 腹痛には裏内庭
などが用いられてきました。
古い書物には、内臓の病気では体を温めて働きを促すことが大切であり、慢性的で長く続く病気には、多くのお灸を繰り返して体の深部まで熱を届けるべきだと記されています。
このような考え方にもとづいて行われるお灸が透熱灸です。
2.焦灼灸
焦灼灸は、施灸した部分の組織を焼いて壊すことを目的としたお灸です。
代表的な例として、いぼや魚の目に行う方法があります。
患部を焼くことで組織を壊し、取り除くことを目的とします。
そのほかにも、
- おでき
- はれもの
- 皮下の炎症
- 動物や虫、蛇などにかまれた傷
- 打撲や切り傷
など、局所的な症状に対して用いられてきました。
この方法は古くから行われており、古典には犬にかまれた傷にお灸を据えたという記録もあります。
いぼや魚の目に行う場合は、もぐさの底を患部全体に密着させ、やや硬めにひねったもぐさを使用します。
施灸回数は比較的多くなります。
途中でかさぶたができると熱を感じにくくなるため、そのまま継続して施灸します。
かさぶたが取れる頃には、いぼや魚の目も自然に取れることがあります。
傷口にお灸を据えると強い痛みを想像されることがありますが、古くからの記録では、実際には想像ほど強い痛みではないとされています。
伝統的には、焦灼灸には次のような働きがあると考えられてきました。
- 出血を止める
- 感染を防ぐ
- 不要な組織を壊す
- 周囲の緊張を和らげる
- 膿の排出を助ける
- 新しい皮膚の再生を促す
- 回復を助ける
- 体の抵抗力を高める
焦灼灸は、焼きごてによる処置に近い意味を持つ治療法として考えられてきました。
3.打膿灸
打膿灸は、お灸によって意図的に化膿を起こし、膿や体液を体の外へ排出させることを目的としたお灸です。
排出されるものが膿であっても透明な体液であっても、同じように打膿灸と呼ばれます。
一般的には、直径1.5〜2センチほどの太いもぐさの棒を作り、それを数か月乾燥させます。
その後、約2センチの長さに切り、皮膚に固定して火をつけ、やけどを起こさせます。
作りたてのもぐさは燃え広がりやすいため、十分に乾燥・保存したものを使用します。
場合によっては、散らしたもぐさを指先ほどの大きさに固め、皮膚の上で燃やすこともあります。
施灸回数は1回の場合もあれば、3回程度行う場合もあります。
もぐさが皮膚へ燃え移る際には、両手の小指側の手のひらで周囲の皮膚をしっかり押さえる方法が用いられていました。
こうすることで皮膚の引きつりを和らげ、施術後の痛みを軽減できると考えられていました。
打膿灸は、体内に停滞した血液や体液の流れを刺激し、神経や血管の働きを活発にするという考え方にもとづいて行われてきた方法です。
施灸する部位は病状や施術者によって異なりますが、代表的な場所として次のような部位が挙げられます。
- お尻の中央付近
- 背中や肩甲骨の周辺
- 腰やひざの周囲
- 足首やふくらはぎ
古くから、皮膚の病気や慢性的な症状に対して、体表の熱を開き、体内にたまったものを外へ出すことを目的として用いられてきました。
参考文献:柳谷素霊『鍼灸の実技』(昭和三十四年)
