頚肩腕症候群とは、首から肩、腕、手にかけて、痛みやしびれ、だるさなどがあらわれる状態の総称です。

病名というよりも、首まわりの筋肉や神経、関節などのトラブルによって起こる症状のまとまりを指します。
日本産業衛生学会は、上肢を使う作業に従事することによって頚・肩・腕の痛み、こり、しびれをきたす疾患を「頚肩腕症候群」と定義しています。
広い意味では、頚椎症や椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群など、原因がはっきり分かるものも含めて頚から肩・腕にかけての痛みや異常感覚を訴える症例全般を指し、これらを除外したうえで原因が特定できないものを、狭い意味での頚肩腕症候群と呼ぶことがあります。[1][2]

デスクワークやスマートフォン使用が増えた現代では、比較的よくみられる症状です。
厚生労働省は、パソコンでのキーボード入力作業などを含む「上肢に負担のかかる作業」に伴う障害として、頚肩腕症候群を含む上肢障害の労災認定基準を定めています。[3]

肩こりに似ていますが、腕や手のしびれ、力の入りにくさなどを伴うことがある点が特徴です。

なぜ起こるの?

頚肩腕症候群は、一つの原因だけで起こるわけではありません。

さまざまな要因が重なって、首から腕にかけての神経や筋肉に負担がかかることで生じると考えられています。

主な要因として、

・長時間のデスクワーク
・スマートフォン操作
・猫背や前かがみ姿勢
・首や肩の筋肉の緊張
・運動不足
・ストレスや疲労
・睡眠不足
・加齢による頚椎や椎間板の変化

などがあります。

首から腕へ伸びる神経が、筋肉や骨、関節の影響を受けて刺激されることで、痛みやしびれが起こる場合があります。

どんな症状が出るの?

症状には個人差がありますが、次のようなものがみられます。

・首や肩の痛み
・肩甲骨まわりの重だるさ
・腕や手のしびれ
・ピリピリする感覚
・腕がだるい
・細かい作業がしづらい
・長時間同じ姿勢で悪化する
・頭痛やめまいを伴う場合もある

症状は日によって変動することもあり、疲労や天候によって悪化する方もいます。
また、必ずしも上肢の症状だけにとどまらず、集中しにくさ、気分の落ち込み、眠りの浅さなど、全身のさまざまな不調を伴うことがあるとも指摘されています。[2]

どうやって診断するの?

診断では、症状の出る場所や経過、生活習慣などを詳しく確認します。

そのうえで、

・首の動き
・筋力
・感覚
・神経の反射

などを診察します。

必要に応じて、

・レントゲン検査
・MRI検査
・神経学的検査

などを行い、頚椎症や椎間板ヘルニア、神経障害などがないかを確認します。

治療の基本

治療では、首や肩への負担を減らし、筋肉や神経の緊張をやわらげることが大切です。

主な治療には、

・姿勢の改善
・ストレッチや運動療法
・温熱療法
・リハビリテーション
・痛み止めや湿布
・必要に応じた神経の治療

などがあります。

最近では、過度な安静よりも、無理のない範囲で体を動かしながら回復を目指すことが勧められています。

また、作業環境や睡眠、ストレス管理も重要です。
パソコンなどの情報機器を使う作業については、厚生労働省が「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を定めており、一連続作業時間をおおむね1時間以内とし、次の作業までに10〜15分程度の作業休止時間を設けることなどが示されています。[4]

鍼灸は役立つの?

鍼灸は、頚肩腕症候群による痛みや筋肉の緊張をやわらげる補助的な方法として用いられることがあります。

鍼やお灸の刺激によって、

・筋肉の緊張をやわらげる
・血流を改善する
・神経の興奮を落ち着かせる
・痛みの感じ方を調整する
・自律神経のバランスを整える

などの作用が期待されています。

慢性的な首や肩の痛みに対して、一定の症状改善がみられたという研究報告もあります。
比較的新しい系統的レビューでは、26件のランダム化比較試験(3,520例)をまとめた解析で、鍼治療は、効果を持たないとされる対照治療と比較して、痛みの強さ、機能障害、生活の質のいずれにおいても、有意な改善を示したと報告されています。[5]

特に、

・肩こりが強い場合
・ストレスや疲労を伴う場合
・慢性的な筋緊張がある場合

などで、補助的に行われることがあります。
日本国内の女性オフィスワーカーを対象とした研究でも、トリガーポイントを狙った鍼治療が、慢性的な首・肩の痛みや、それに伴う仕事のパフォーマンス低下の軽減に役立つ可能性が示されています。[6]

ただし、強い神経症状がある場合には、まず医療機関で詳しい評価を受けることが重要です。

受診の目安

次のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

・腕や手のしびれが強い
・力が入りにくい
・物を落としやすい
・歩きにくい
・発熱を伴う
・強い痛みが続く
・症状が急に悪化した
・事故や転倒のあとから症状が出た

これらは、神経や脊髄の病気が関係している可能性があります。

日常生活で気をつけたいこと

・長時間同じ姿勢を続けない
・定期的に休憩をとる
・スマートフォンを見下ろしすぎない
・肩甲骨を動かす習慣をつける
・首や肩を冷やしすぎない
・十分な睡眠をとる
・ストレスをため込みすぎない

日常生活の負担を少しずつ減らしていくことが、改善や再発予防につながります。

まとめ

頚肩腕症候群は、首から肩、腕にかけて痛みやしびれがあらわれる状態です。[1][2]

姿勢や筋肉の緊張、加齢変化、ストレスなど、さまざまな要因が関係しています。

治療では、生活習慣の見直しやリハビリ、薬物療法などを組み合わせながら、無理なく改善を目指します。[4]

鍼灸は、筋肉の緊張や痛みをやわらげる補助的な方法として役立つ可能性があります。[5][6]

症状が続く場合や不安がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。

【脚注一覧】

[1] 厚生労働省労働基準局長「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準について」基発第65号, 1997年(平成9年)2月3日.(上肢障害の代表的な診断名として、上腕骨外〔内〕上顆炎、肘部管症候群、手根管症候群、頚肩腕症候群などを例示。頚肩腕症候群は、出現する症状がさまざまで障害部位が特定できず、それに対応した診断名を下すことができない不定愁訴等を特徴とする疾病として、狭義の意味で使用されているとする記載)

[2] 頸肩腕症候群. Wikipedia日本語版(日本産業衛生学会の定義を参照).(日本産業衛生学会が「上肢作業に従事することによって頚肩腕の痛み、こり、しびれをきたす疾患」を頚肩腕症候群と定義したとする記載。広義の頚肩腕症候群は、他の整形外科的疾患〔変形性頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群等〕を含む頚部から肩・腕・背部などにかけての症状全般を指し、これらを除外した原因不明のものを狭義の頚肩腕症候群と呼ぶとする整理。頭痛・めまい・耳鳴りなどの一般症状、集中困難・情緒不安定・抑うつ症状、睡眠障害等を伴うこともあるとされる。なお、原典は学会の一次資料ではなく、二次的な解説記事である点に留意が必要)

[3] 厚生労働省「上肢障害の労災認定」リーフレット.(上肢等〔後頭部、頚部、肩甲帯、上腕、前腕、手、指〕に負担のかかる作業として、パソコンでのキーボード入力作業などを例示。上肢障害の労災認定には、上肢等に負担のかかる作業を主とする業務への相当期間の従事、発症前の過重な業務への就労、その経過が医学上妥当であることの3要件を満たす必要があるとする記載)

[4] 厚生労働省「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」基発1201第7号, 2021年(令和3年)12月1日一部改正.(ディスプレイ、キーボード等を用いた情報機器作業について、眼、頚、肩、腰背部、上肢等への負担による疲労を防止する目的で、一連続作業時間をおおむね1時間を超えないようにし、次の連続作業までに10〜15分の作業休止時間を設けることなどを定めた労働衛生管理ガイドライン)

[5] Xie CR, Zhang ZY, Tao QF, Luo XD, Fu QX, Gao L, Wang T, Ouyang X, Yan QY, Sun MS, Wang X, Liang FR, Zheng H, Zhao L. Effectiveness of Acupuncture for Neck Pain: Systematic Review and Meta-analysis with Trial Sequential Analysis. J Pain Res. 2025;18:6297-6316. doi:10.2147/JPR.S558059.(26件のRCT・3,520例を対象とした系統的レビュー・メタ解析。有効性を持たない対照治療と比較して、鍼治療は疼痛強度〔平均差-1.26、95%信頼区間-1.77〜-0.75、P<0.001〕、疼痛知覚〔平均差-3.46、95%信頼区間-5.71〜-1.21、P=0.003〕、機能障害〔平均差-6.52、95%信頼区間-9.8〜-3.2、P<0.001〕のいずれにおいても有意な改善を示した。組み入れられた研究のうち低バイアスリスクと判定されたのは50%であった。試験逐次分析〔TSA〕でも、これらの結果が偶然や早期の有意性検定の繰り返しによるものではないことが示唆された)

[6] Minakawa Y, Miyazaki S, Waki H, Akimoto Y, Itoh K. Clinical effectiveness of trigger point acupuncture on chronic neck and shoulder pain (katakori) with work productivity loss in office workers: a randomized clinical trial. J Occup Health. 2024;66(1):uiad016.(3か月以上続く慢性的な首・肩の痛みを持つ女性オフィスワーカー20名を対象とした単一施設RCT。トリガーポイント鍼治療群は、職場推奨のプレゼンティーイズム対策のみの対照群と比較して、痛みの強さと労働生産性の指標が有意に改善した。対照群は偽鍼ではなく無治療であり、非盲検・少人数の予備的研究である点に限界がある)

・これらは、お知らせブログの過去の記事を転載したものです。
・過去の記事のため、一部内容を加筆・修正しています。
・2026年8月:脚注をAIを用いて追加しました。