過敏性腸症候群 は、腸に炎症や潰瘍などの大きな異常が見つからないにもかかわらず、腹痛や便通異常が長く続く病気です。

英語では「Irritable Bowel Syndrome」と呼ばれ、「IBS」と略されます。

命に直接関わる病気ではありませんが、腹痛や便通の不安によって、仕事や通学、外出に影響が出ることもあり、生活の質(QOL)を大きく下げる場合があります。[1]

どんな症状が出るの?

代表的な症状には、次のようなものがあります。

・お腹がしくしく痛む
・お腹が張る
・ガスがたまりやすい
・下痢が続く
・便秘が続く
・下痢と便秘を繰り返す

また、排便をすると症状が少し楽になることが多いのも特徴です。[1]

症状は、
・ストレス
・緊張
・寝不足
・食べすぎや飲みすぎ
・冷え

などで悪化することがあります。

一方で、血液検査や内視鏡検査などを行っても、明らかな異常が見つからないことが多い病気です。

なぜ起こるの?

IBSの原因は、ひとつではありません。

現在では、腸と脳の働きが互いに影響し合う「脳腸相関(のうちょうそうかん)」が深く関係していると考えられています。[1]

主な要因として、
・腸の動きが敏感になっている
・腸の知覚が過敏になっている
・ストレスや不安
・自律神経の乱れ
・腸内細菌のバランスの変化
・感染性胃腸炎のあとに残る変化

などがあります。[1]

特に、ストレスや緊張によって症状が強くなる方も少なくありません。

どうやって診断するの?

診断では、まずほかの病気が隠れていないかを確認します。

医師は、症状の内容や続いている期間、排便との関係などを詳しく確認します。

必要に応じて、
・血液検査
・便検査
・内視鏡検査

などを行い、
・炎症性腸疾患
・大腸がん
・潰瘍

などの病気ではないことを確認します。[1]

特に、
・血便がある
・急に体重が減る
・発熱が続く
・夜中に痛みで目が覚める

といった場合は、IBS以外の病気の可能性もあるため注意が必要です。[1]

治療の基本

治療では、「症状を軽くして、生活を送りやすくすること」を目標にします。

生活習慣の見直し

まずは、
・十分な睡眠
・適度な運動
・規則正しい生活

を心がけることが大切です。

食事の工夫

・食べすぎを避ける
・脂っこいものや刺激物を控える
・暴飲暴食を避ける

などが役立つ場合があります。

人によって症状が出やすい食品は異なるため、自分に合った食事を見つけることが大切です。[1]

薬物療法

症状に応じて、
・腸の動きを整える薬
・下痢止め
・便秘薬
・整腸剤

などが使われます。[1]

ストレスケア

ストレスが強く関係している場合には、
・リラクゼーション
・心理療法(認知行動療法など)
・カウンセリング

などが役立つこともあります。

気を付ける症状

次のような症状がある場合は、IBSではなく別の病気が隠れていることがあります。自己判断せず、早めに医療機関を受診しましょう。[1][4]

・便に血が混じる
・特に理由もなく体重が減ってきた
・貧血がある、またはめまいやふらつきがある
・熱が続いている
・夜、お腹の痛みや下痢で目が覚める
・50歳を過ぎてから初めて症状が出てきた
・家族に大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)の人がいる
・お腹にしこりのようなものを触れる
・便の出方が急に大きく変わった

こうした症状があっても、必ずしも重い病気とは限りません。ただ、大腸がんなど、ほかの病気ではないことを確認するために、追加の検査(血液検査、便検査、内視鏡検査など)を行うことがあります。[1][4]

これらの症状がなく、いつも通りの症状パターンであれば、検査を何度も繰り返す必要はないとされています。[1]

鍼灸は役立つの?

鍼灸は、IBSに対する補助的な方法として用いられることがあります。

主に、
・お腹や背中の緊張をやわらげる
・自律神経のバランスを整える
・ストレスや不安を軽減する
・腹痛やお腹の張りを和らげる

ことを目的に行われます。

一部の研究では、腹痛や不安感の軽減につながる可能性が報告されています。[2]

また、鍼治療をほかの治療法に追加することで、症状改善に役立つ可能性を示した研究もあります。[2][3]

ただし、効果には個人差があり、鍼灸だけでIBSを治すことは難しいと考えられています。研究の設計によって結果が分かれており、偽の鍼(プラセボ鍼)と比較した最も厳密な試験では、明確な上乗せ効果は確認されていません。[2]

そのため、生活改善や薬物療法などの標準治療を基本にしながら、補助的に取り入れることが一般的です。

上手に付き合うためのポイント

IBSは、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、長く付き合っていく病気です。

そのため、
・完璧を目指しすぎない
・「少しずつ楽になる」ことを目標にする
・食事や睡眠、体調を記録する
・不安を抱え込まず相談する

ことが大切です。

つらいときには無理をせず、医療機関と相談しながら、自分に合った方法を見つけていきましょう。

まとめ

過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛や便通異常が続く病気です。

腸に大きな異常は見つからなくても、ストレスや自律神経、腸の過敏性などが関係して、症状が現れると考えられています。[1]

治療では、生活習慣の見直しや食事の工夫、薬物療法、ストレスケアなどを組み合わせながら進めます。

鍼灸は、腹部の不快感やストレスを和らげる補助的な方法として役立つ可能性がありますが、研究による結果のばらつきがあります。[2][3]

症状を一人で抱え込まず、医療機関と相談しながら、少しずつ付き合っていくことが大切です。

【脚注一覧】

[1] 日本消化器病学会(編)『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版)』南江堂, 2020.(IBSはRome Ⅳ基準で診断される機能性消化管疾患であり、脳腸相関が病態生理に密接に関与するとされる。国内有病率はRome Ⅳ基準で約10〜15%と推計。血便、体重減少、発熱、夜間の症状などはアラームサイン(red flag症状)として、器質的疾患の除外検査を優先すべきとされる。食事療法・生活習慣改善・薬物療法を組み合わせた段階的治療を推奨)

[2] Manheimer E, Wieland LS, Cheng K, Li SM, Shen X, Berman BM, Lao L. Acupuncture for irritable bowel syndrome: systematic review and meta-analysis. Am J Gastroenterol. 2012;107(6):835-847.(17件のRCTを対象としたシステマティックレビュー・メタ解析。最も厳密な設計である偽鍼(プラセボ鍼)対照の4件のRCTでは、症状重症度・QOLのいずれにおいても鍼治療の優位性を示すエビデンスは得られなかった。一方、偽鍼対照を用いない試験では、鍼治療が薬物療法(5件のRCT)や無治療(2件のRCT)と比較して症状改善率が高かったが、これらの試験は盲検化の欠如などによりバイアスリスクが高いと評価されている)

[3] Yang Y, Rao K, Zhan K, Shen M, Zheng H, Qin S, Wu H, Bian Z, Huang S. Clinical evidence of acupuncture and moxibustion for irritable bowel syndrome: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Front Public Health. 2022;10:1022145.(31件のRCTを対象とした比較的新しいメタ解析。鍼灸が薬物療法と比較して症状重症度の軽減に優れていたと報告。ただし研究間の異質性が高く(I²=71%)、GRADE評価でエビデンスの質は総じて低いとされている)

[4] Cash BD, Chey WD. Irritable Bowel Syndrome — an evidence-based approach to diagnosis. Aliment Pharmacol Ther. 2004;19(12):1235-1245、および複数の臨床総説(Rome財団関連資料等)に基づく一般的なアラームサイン(red flag症状)の整理。血便、原因不明の体重減少、貧血、発熱、夜間症状、50歳以降の発症、大腸がん・炎症性腸疾患・セリアック病の家族歴、腹部腫瘤、急激な排便習慣の変化などが、器質的疾患を除外するための追加検査を要する所見として、複数の国際的な診療指針で共通して挙げられている。ただし、これらの症状の陽性的中率は個々の項目では必ずしも高くなく(例えば発熱・家族歴単独での器質的疾患の予測力は限定的)、複数の所見を組み合わせて評価することが推奨されている。

・これらは、お知らせブログの過去の記事を転載したものです。
・過去の記事のため、一部内容を加筆・修正しています。
・2026年8月:脚注をAIを用いて追加しました。