冷え症とは、体が冷えやすく、特に手足やお腹、腰などに冷たさや不快感を感じる状態をいいます。
同じ気温、同じ環境にいても、周囲の人が寒く感じていなければ、自分だけ強い冷えを感じることがあります。この「感じ方の個人差」こそが、冷え症の大きな特徴です。
医学的には正式な病名ではありませんが、血流や自律神経、ホルモンバランスなどの影響によって起こる症状のひとつと考えられています。
特に女性に多くみられますが、男性にも起こります。日本人女性を対象とした疫学調査では、約85%の女性が軽度または重度の冷え(手足の冷え)を経験しているとの報告があります。[1]
なぜ起こるの?
冷え症には、さまざまな要因が関係しています。
体は、血液によって熱を運んでいます。
そのため、血流が低下すると、手足など体の末端まで十分に熱が届きにくくなります。
また、自律神経のバランスが乱れると、血管の収縮や拡張の調整がうまくいかず、冷えを感じやすくなることがあります。皮膚の血流は自律神経のうち交感神経によって調整されており、この調整機能に個人差があることが、冷えの感じやすさに関わっていると考えられています。[2]
さらに、
・筋肉量が少ない
・運動不足
・食事量の不足
・偏った食事
・ストレスや緊張
・睡眠不足
・更年期などのホルモン変化
なども関係すると考えられています。
日本人女性を対象とした調査では、冷えを感じやすい方ほど、精神的なQOL(生活の質)が低い傾向や、睡眠の質への不満、習慣的な飲酒との関連もみられており、心と体の両面から生活習慣を見直すことが大切だと考えられます。[1]
まれに、
・貧血
・甲状腺機能低下症
・膠原病
・糖尿病
・血管の病気
などが背景に隠れていることもあります。
どんな症状が出るの?
次のような症状がみられることがあります。
・手足が冷たい
・お腹や腰が冷える
・寒がりになった
・肩こりや腰痛が悪化する
・頭痛が起こりやすい
・しもやけができやすい
・疲れやすい
・眠りが浅い
・むくみやすい
症状の感じ方には個人差があります。
季節だけでなく、ストレスや疲労によって悪化することもあります。日本人女性を対象とした調査では、冷えのある方はそうでない方と比べて、腰痛が約4.9倍、聞こえにくさが約4.8倍起こりやすいなど、肩こり・疲労感・頭痛・かゆみといった症状もあわせて経験しやすいことが報告されています。[1]
また、単なる「冷え症」とは別に、指先が寒さで急に白色、続いて紫色、その後赤色へと変化するという特徴的な色の変化を伴う場合は、「レイノー現象」という、血管の急な収縮による別の状態が疑われます。[3]
どうやって診断するの?
診断では、冷えの感じ方や症状の出る場所、生活習慣などについて確認します。
例えば、
・いつから冷えを感じるか
・どの部位が冷えるか
・季節や時間帯との関係
・月経や更年期症状の有無
・睡眠や食事の状態
などを詳しくうかがいます。
必要に応じて血液検査を行い、
・貧血
・甲状腺の病気
・炎症性疾患
・糖尿病
など、ほかの病気がないかを確認します。
これらを総合して、冷え症かどうかを判断します。
治療の基本
治療では、体を温めやすい状態を整えることが大切です。
まずは生活習慣の見直しが基本になります。
・適度な運動を行う
・筋肉量を保つ
・十分な睡眠をとる
・ストレスをためすぎない
・栄養バランスを整える
ことが勧められます。
また、
・首、手首、足首を冷やさない
・入浴で体を温める
・冷たい飲み物をとりすぎない
といった工夫も役立ちます。
必要に応じて、漢方薬などが用いられることもあります。
背景に病気がある場合には、その治療が優先されます。
鍼灸は役立つの?
鍼灸は、冷え症に対する補助的な方法として用いられることがあります。
鍼やお灸の刺激によって、
・血流を促す
・筋肉の緊張をやわらげる
・自律神経のバランスを整える
可能性があると考えられています。
一部の研究では、冷え感や肩こり、疲労感の改善が報告されています。[4]
特に、お灸による温熱刺激は、体を温める感覚につながることがあります。[4]
なお、レイノー現象を対象とした複数の研究をまとめた解析では、鍼治療によって症状が落ち着く割合(寛解率)が高まり、発作の回数が減ったとする報告があります。[5]
ただし、研究結果にはばらつきがあり、すべての方に同じ効果が確認されているわけではありません。含まれた研究の多くは対象人数が少なく、研究の質そのものも高くないと評価されており、より大規模で質の高い研究が今後必要とされています。[5]
鍼灸は、医療機関での治療や生活習慣の改善を基本としたうえで、補助的に取り入れることが大切です。
持病のある方や治療中の方は、事前に主治医へ相談しましょう。
受診の目安
次のような場合は、医療機関への相談を検討しましょう。
・冷えが強く、生活に支障がある
・急に冷えが強くなった
・手足のしびれや痛みがある
・皮膚の色が白や紫に変わる
・動悸や息切れを伴う
・強いだるさや体重変化がある
こうした場合は、貧血やホルモンの病気、血管や神経の病気などが関係していることがあります。特に、指先の色が白から紫、赤へと変化する場合は、レイノー現象や、その背景にある膠原病などの病気が隠れていることがあるため、注意が必要です。[3]
まとめ
冷え症は、血流や自律神経、生活習慣などが関係して起こる症状です。
命に関わることは多くありませんが、肩こりや疲労感、睡眠の質の低下など、生活に影響を与えることがあります。[1]
治療では、生活習慣を整え、体を冷やさない工夫を続けることが大切です。
鍼灸は、血流や自律神経の働きを整える補助的な方法として役立つ可能性がありますが、そのエビデンスの質には限界があります。[4]
冷えが強い場合や急に悪化した場合は、自己判断せず、医療機関へ相談しましょう。
【脚注一覧】
[1] Tsuboi S, Mine T, Tomioka Y, Shiraishi S, Fukushima F, Ikaga T. Are cold extremities an issue in women's health? Epidemiological evaluation of cold extremities among Japanese women. Int J Womens Health. 2019;11:31-39. doi:10.2147/IJWH.S190414.(日本全国の女性238名を対象とした横断研究。軽度の冷えの有病率は49.6%、重度は35.3%(合計約85%)と報告。冷えと有意に関連した随伴症状は、肩こり、疲労感、腰痛、頭痛、鼻づまり、かゆみ、けが、難聴であった。多重ロジスティック回帰分析では、冷えのある方は腰痛のリスクが4.91倍、難聴のリスクが4.84倍であった。また、精神的QOL、睡眠の質への不満、習慣的な飲酒が、その他の自覚症状と有意に関連していた)
[2] 新藤和雅「冷え性と自律神経」自律神経. 2023;60(2):71-75. doi:10.32272/ans.60.2_71.(山梨大学医学部神経内科学講座による総説。皮膚血流は交感神経性血管収縮神経により調節されており、寒冷刺激に対する皮膚血流反応の個人差が冷え症の病態生理に関与するとする記載)
[3] Wigley FM, Flavahan NA. Raynaud's Phenomenon. N Engl J Med. 2016;375(6):556-565. doi:10.1056/NEJMra1507638.(レイノー現象に関する代表的な総説論文。寒冷やストレスによる血管の過剰な収縮により、指先が白(虚血)→青紫(低酸素)→赤(血流再開)と特徴的に変化する現象であり、全身性強皮症などの膠原病に続発する「二次性」の場合があると解説)
[4] Tsujiuchi K, Koido Y, Sakaguchi S. Effectiveness of Self-care with Indirect Moxibustion on Hiesho (Cold Disorder) in Mature Females: A Prospective Multicenter Randomized Controlled Trial Using Leg Warmers as a Control. Kampo Med. 2021;72(4):341-348.(日本東洋医学会公式誌に掲載。18〜39歳の女性49名を対象とした多施設共同無作為化比較試験。就寝前に関元(KI1)・三陰交(SP6)・足三里(ST36)へのお灸によるセルフケアを行った群(25名)と、レッグウォーマー着用群(対照群、24名)を比較。お灸によるセルフケアは、冷え症の程度および随伴症状を軽減し、レッグウォーマー着用と比較して、額と末梢の体温差の拡大を抑制したと報告)
Sakaguchi S, Mori H, Miyazaki J, Furuta T, Yuri K, Suoh S, et al. Effectiveness of Acupuncture Therapy on Hiesho (Cold Disorder) in Maturate Stage Females: A Multicenter, Randomized, Prospective, Controlled Trial. Kampo Med. 2016;67(4):340-346.(同じく日本東洋医学会誌に掲載された多施設共同無作為化比較試験。成熟期女性の冷え症に対する鍼治療の有効性を検証)
[5] Zhou F, Huang E, Zheng E, Deng J. The use of acupuncture in patients with Raynaud's syndrome: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. J R Soc Med. 2023;116(6):203-213. doi:10.1177/09645284221076504.(6件のRCT・272例を対象としたメタ解析。鍼治療群で寛解率の上昇(リスク比1.21、95%信頼区間1.10-1.34)、1日あたりの発作回数の減少(平均差-0.57、95%信頼区間-1.14〜-0.01)を認めた。ただし対象人数が少なく、エビデンスの質は非常に低く、バイアスのリスクも高いと著者らは明記しており、大規模な質の高いRCTが今後必要と結論づけている)
・これらは、お知らせブログの過去の記事を転載したものです。
・過去の記事のため、一部内容を加筆・修正しています。
・2026年8月:脚注をAIを用いて追加しました。
