がんに伴う痛み(がん性疼痛)は、がんそのものだけでなく、治療や体の変化など、さまざまな原因によって起こります。

「がん=強い痛み」というイメージを持たれることがありますが、実際には、がんの種類や発生部位、病気の広がり方によって、痛みの出方は大きく異なります。
そのため、痛みの強さだけから、がんの進行度を判断することはできません。

また、痛みは我慢するものではありません。

現在では、薬物療法や緩和ケアによって、多くの痛みを和らげられる可能性があります。
世界保健機関(WHO)のがん疼痛に関する指針でも、痛みを日常生活が送れる程度まで和らげること、鎮痛薬は経口的に・時間を決めて・患者ごとに調整して用いることなどが、鎮痛治療の基本原則として掲げられています。[1][2]

痛みを我慢し続けると、
・食欲低下
・睡眠不足
・気力の低下
・体力低下
・動きにくさ
などにつながり、生活の質(QOL)が大きく低下してしまいます。

つらいときは、遠慮せず医療者に伝えることが大切です。

なぜ痛みが起こるの?

がんの痛みには、いくつかの種類があります。

がん自体による痛み

がんが周囲の組織や神経を圧迫したり、骨や内臓へ広がったりすることで痛みが起こります。

体性痛

骨や筋肉、皮膚などに生じる痛みです。

・ズキズキする
・鋭い痛み
・動くと強くなる
といった特徴があります。

骨転移による痛みが代表的です。

内臓痛

胃や腸、肝臓、肺などの内臓から生じる痛みです。

・重たい
・締めつけられる
・鈍く広がる
ように感じることがあります。

神経障害性疼痛

がんや治療によって神経が傷つくと、
・ビリビリする
・焼けるような感じ
・しびれる
などの痛みが現れることがあります。

治療に伴う痛み

がん治療によって生じる痛みもあります。

例えば、
・手術後の痛み
・抗がん剤による末梢神経障害
・放射線治療後の炎症や線維化
などがあります。

その他の痛み

長期間の療養に伴い、
・腰痛
・肩こり
・床ずれ(褥瘡)
・リンパ浮腫による張りや痛み
などが起こることもあります。

このように、痛みの原因は一つではなく、複数重なっていることも少なくありません。
日本緩和医療学会のガイドラインでも、痛みの原因を正しく評価し、治療計画を立てることが治療の出発点として重視されています。[1]

「心のつらさ」も痛みに関係します

がんの痛みは、体だけの問題ではありません。

がんと診断されることで、
・不安
・恐怖
・将来への心配
・仕事や経済面の悩み
・家族への思い
など、さまざまな精神的負担が生じます。

このような、
・身体的苦痛
・心理的苦痛
・社会的苦痛
・スピリチュアルな苦痛
をまとめて「全人的苦痛」と呼びます。
イギリスの医師シシリー・ソンダースが提唱した考え方で、緩和ケアの基本理念の一つとされています。[3]

そのため、がんの痛みでは、体だけでなく心や生活面も含めた支援が重要になります。

痛みはどうやって治療するの?

痛みの種類や強さに応じて、複数の方法を組み合わせながら治療します。

薬物療法

痛み治療の基本になります。

症状に応じて、
・アセトアミノフェン
・NSAIDs(消炎鎮痛薬)
・オピオイド(医療用麻薬)
・神経障害性疼痛に使う薬
などが使われます。

オピオイドには、
・モルヒネ
・オキシコドン
・フェンタニル
などがあります。

オピオイド鎮痛薬は、医師の管理のもとで適切に使用すれば、がんの痛みを和らげる重要な治療法です。
中等度から高度のがん疼痛に対しては、複数の強オピオイドの間で明確な優劣は示されておらず、患者の状態に応じてどの薬剤を選択してもよいとされています。[1]

必要に応じて、
・不安を和らげる薬
・睡眠を助ける薬
などが併用されることもあります。

緩和ケア

緩和ケアは、終末期だけのものではありません。

現在は、がんと診断された早い段階から行うことが推奨されています。

緩和ケアでは、
・痛みや症状の調整
・気持ちのケア
・家族支援
・仕事や生活の相談
などを、多職種のチームで支えます。

「できるだけ楽に、自分らしく過ごすこと」が大切な目的です。

リハビリテーション・生活の工夫

姿勢や体の使い方を工夫することで、痛みが軽減する場合があります。

また、
・適度な運動
・体位調整
・温熱療法
などが役立つこともあります。

ただし、
・強い炎症
・発熱
・皮膚トラブル
がある場合は、温めすぎに注意が必要です。

鍼灸は役立つの?

鍼灸は、がんそのものを治す治療ではありません。

一方で、補助的な方法として、次のような症状の緩和に用いられることがあります。

・痛みやこわばりの軽減
・しびれや不快感の緩和
・吐き気や食欲低下へのサポート
・便秘や不眠への補助
・不安や緊張の軽減
・リラックスの促進

がんの痛みに対する鍼灸の研究結果は、一致していません。
比較的新しい系統的レビュー(2023年、17件のRCT・1,275例)では、電気を流しながら鍼を刺す「電気鍼」を通常の治療に追加した群で、痛みのスコアや全身状態を表す指標など、複数の評価項目に統計学的な改善がみられたと報告されています。[4]

一方、別の系統的レビューでは、対象となったすべての研究に高いバイアスのリスクがあり、鍼治療単独では、通常の薬物療法と比較して痛みを軽減する効果に優れているとは言えなかったと報告されています。[5]

このように、研究によって結果や評価にばらつきがあり、含まれる試験の質にも限界があります。
現時点では、「標準的な薬物療法に鍼治療を組み合わせることで、症状緩和の助けになる可能性がある」という、補助療法としての位置づけにとどまります。
鍼治療だけでがんの痛みを十分にコントロールできるという、確実なエビデンスはまだありません。

また、抗がん剤治療に伴う吐き気やしびれに対して、補助的に役立つ可能性も研究されています。

ただし、効果には個人差があり、標準治療の代わりにはなりません。

特に、
・血液が固まりにくい状態
・感染症
・強い発熱
・白血球減少
などがある場合には、施術に注意が必要です。

治療中の方は、必ず主治医や鍼灸師と相談しながら安全に行うことが重要です。

受診・相談の目安

次のような場合は、早めに医療者へ相談しましょう。

・痛みが強くなってきた
・薬で十分に抑えられない
・眠れないほど痛い
・食事や歩行が難しい
・しびれや力の入りにくさがある
・不安や気分の落ち込みが強い

痛みを我慢しすぎると、体力や生活の質が低下しやすくなります。

「こんなことを相談していいのかな」と思うことでも、遠慮せず伝えることが大切です。

まとめ

がんに伴う痛みは、がんそのものだけでなく、治療や体の変化、心の負担など、さまざまな要因が関係して起こります。[3]

痛みの強さと病気の進行度は必ずしも一致しません。

現在は、
・薬物療法
・緩和ケア
・リハビリテーション
・生活支援
などを組み合わせながら、多面的に痛みを和らげることが重視されています。[1][2]

鍼灸は、痛みや不快感、不眠や不安などを支える補助療法として役立つ可能性がありますが、研究結果は一致しておらず、標準治療に代わるものではありません。[4][5]

つらさを一人で抱え込まず、医療者と相談しながら、自分に合った方法を見つけていくことが大切です。

【脚注一覧】

[1] 日本緩和医療学会ガイドライン統括委員会(編)『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版』金原出版, 2020.

[2] World Health Organization. WHO Guidelines for the pharmacological and radiotherapeutic management of cancer pain in adults and adolescents. Geneva: WHO; 2018.

[3] Saunders C. The philosophy of terminal care. In: Saunders C, ed. The Management of Terminal Disease. London: Edward Arnold; 1978:193-202.(Cicely Saundersが提唱した「Total Pain(全人的苦痛)」の概念を扱った文献。身体的な痛みだけでなく、心理的・社会的・スピリチュアルな側面を含めて患者の苦痛を捉えるという、現代の緩和ケアにつながる基本的な考え方を示している。)

[4] Zhang J, Wu W, Ren Y, Yuan Y, Jia L. Electroacupuncture for the treatment of cancer pain: a systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials. Front Pain Res (Lausanne). 2023;4:1186506. doi:10.3389/fpain.2023.1186506.(17件のRCT・1,275例〔各試験の対象人数は7〜360例〕を対象とした系統的レビュー・メタ解析。8つの評価指標のうち多くが統計学的に有意であり、VASスコア(平均差-1.41、95%信頼区間-2.42〜-0.41、P=0.006)、NRSスコア(平均差-1.19、95%信頼区間-1.72〜-0.66、P<0.0001)などで有意な改善を示した)

[5] Hu C, Zhang H, Wu W, Yu W, Li Y, Bai J, Luo B, Li S. Acupuncture for Pain Management in Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis. Evid Based Complement Alternat Med. 2016;2016:1720239. doi:10.1155/2016/1720239.(20件のRCT・1,639例を対象とした系統的レビュー・メタ解析。鍼治療単独は通常の薬物療法と比較して、明確に優れた鎮痛効果を示さなかった。一方、鍼治療を薬物療法に追加した場合には、痛みの寛解率、鎮痛開始までの時間、無痛期間、QOLなどの改善が報告された。ただし、これらのエビデンスの質はGRADE評価で非常に低く、研究の質や規模に限界があるとされた。)

・これらは、お知らせブログの過去の記事を転載したものです。
・過去の記事のため、一部内容を加筆・修正しています。
・2026年8月:脚注をAIを用いて追加しました。