鍼を刺す前や、鍼を抜いたあとに、刺す場所を軽く揉んだり押したりする方法を「刺鍼部揉撚法」といいます。
術式によっては行わないこともありますが、一般的には大切な手技とされています。
これは、体への負担を減らし、鍼の効果を高めるために行われます。
1.前揉撚法
前揉撚法とは、鍼を刺す前に刺す場所を揉んだり押したりする方法です。
鍼は本来、体にとって異物です。
そのため、突然刺すのではなく、事前に体を刺激に慣らす目的で行われます。
古い鍼法では、この手技を〈十四の鍼法〉の「摂または切」と呼んでいました。
前揉撚法の目的
1)鍼が入ることを体に知らせる
外から鍼が入ってくることを、あらかじめ体に伝える役割があります。
いわば、体への「挨拶」のような意味があります。
2)皮膚や筋肉をやわらかくする
刺す場所をほぐし、刺激に慣れやすくします。
3)痛みを和らげる
刺される感覚を事前に体へ伝えることで、痛みを感じにくくします。
4)鍼を刺しやすくする
皮膚や筋肉が柔らかくなるため、鍼が入りやすくなります。
5)不安や緊張をやわらげる
初めて鍼を受ける人の恐怖感や緊張を軽減する効果があります。
2.後揉撚法
後揉撚法とは、鍼を抜いたあとに、刺した部分を揉んだり押したりする方法です。
通常は、鍼を抜いた直後に、押手の人差し指や親指で行います。
後揉撚法の目的
1)刺激感をやわらげる
鍼を刺したあとに残る刺激感を軽減したり、消したりします。
2)回復を助ける
小さな出血を吸収しやすくし、組織の回復を促します。
3)鍼痕を残りにくくする
鍼を刺した跡が残るのを防ぎ、目立ちにくくします。
4)鍼の効果を高める
刺鍼による刺激を、より効果的に体へ伝える働きがあります。
この方法は、《十四の鍼法》では「捫」という手技にあたり、《素問・鍼解篇》では「補の術」と呼ばれています。
3.刺鍼部揉撚法の行い方
鍼を刺すことは、体に対して機械的な刺激を与える行為です。
そのため、体は必ず何らかの反応を示します。
術者は、その反応をよく考えながら、丁寧に行う必要があります。
これは日常生活での礼儀作法にも似ており、会釈や挨拶のような感覚で行うべきものとされています。
そのため、落ち着いて丁寧に行うことが大切です。
基本的な方法
1)指の使い方
通常は、人差し指または親指を使います。
刺鍼部が硬い場合には、
- 人差し指の爪の上に中指を重ねて力を補う
- 親指の爪を立てて、やや強めに圧迫する
といった方法を用いることもあります。
2)力加減
力は強すぎても弱すぎてもよくありません。
相手の皮膚や筋肉の状態に合わせて調整します。
3)深くゆっくり行う
皮膚の表面だけを滑動させないで、ゆっくりと深い部分まで力が伝わるように行います。
4)回すように行う
ゆっくり回転させるように揉撚します。
5)回数
通常は10回から15回程度行います。
必要に応じて、30回以上行うこともあります。
6)避けるべきやり方
- 速く回しすぎる
- 皮膚表面だけをこする
- 上ずった調子で行う
といった方法は避けます。
落ち着いて押さえながら、ゆっくり丁寧に行うことが大切です。
参考文献:柳谷素霊『鍼灸の実技』(昭和三十四年)
