月経前症候群(PMS:Premenstrual Syndrome)とは、生理(月経)が始まる数日前から、心や体にさまざまな不調があらわれ、生理が始まると軽くなる、または消えていく状態をいいます。

症状のあらわれ方には個人差があり、軽い不調ですむ方もいれば、仕事や学校、日常生活に大きな影響が出る方もいます。

日本産科婦人科学会などでも、PMSは珍しいものではなく、適切な対処が大切とされています。
日本産科婦人科学会は、PMSを「月経前3〜10日の黄体期のあいだ続く精神的あるいは身体的症状で、月経発来とともに減退ないし消失するもの」と定義しています。[1]

なぜ起こるの?

はっきりした原因は、まだ完全には解明されていません。

現在は、排卵後から月経前にかけて変動する女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)が、脳や自律神経、感情に関わる神経伝達物質に影響することが関係していると考えられています。

また、ストレスや睡眠、生活習慣などが、症状の強さに影響する可能性も指摘されています。

ただし、PMSの発症や症状の程度には個人差が大きく、「冷え」や「性格」などを単独の原因として説明できるわけではありません。

症状は「気のせい」ではなく、体と心の変化として実際に起こるものです。

どんな症状が出るの?

症状は人によって異なり、身体症状と精神症状の両方がみられることがあります。

身体の症状

・下腹部の張りや痛み
・乳房の張りや痛み
・頭痛、頭が重い感じ
・むくみ
・だるさ、疲れやすさ
・眠気
・便秘や下痢

心の症状

・イライラしやすい
・不安感
・気分の落ち込み
・涙もろくなる
・集中しにくい
・怒りっぽくなる

症状は月経前に繰り返し起こり、生理開始後に軽くなることが特徴です。
日本産科婦人科学会の診断基準では、月経開始後4日以内に症状が解消し、少なくとも月経周期13日目までは再発しないことも、PMSと判断するための条件のひとつとされています。[1][2]

気分の落ち込みや不安、怒りなどが特に強く、日常生活に大きな支障が出る場合は、PMDD(月経前不快気分障害)という状態に該当することもあります。
日本産科婦人科学会の診療指針では、PMSの診断には米国産科婦人科学会(ACOG)の診断基準を、PMDDの診断には米国精神医学会のDSM-5-TR診断基準を用いることとされています。[2]

どうやって診断するの?

PMSには、特別な血液検査だけで診断できる方法はありません。

医師は、

・どんな症状があるか
・いつ症状が出るか
・月経との関係
・生活への影響

などを確認しながら診断します。

症状日記やアプリなどで、月経周期と体調の変化を記録すると、診断や治療の参考になります。日本産科婦人科学会の診療指針でも、少なくとも2周期にわたる症状日誌の記録が推奨されています。[2]

必要に応じて、甲状腺疾患やうつ病、貧血など、ほかの病気が隠れていないかを調べることもあります。

治療の基本

治療は、症状の強さや生活への影響に応じて行われます。

まず大切なのは、生活習慣を整えることです。

・十分な睡眠をとる
・適度に運動する
・無理をしすぎない
・ストレスをため込みすぎない
・体を冷やしすぎない
・カフェインやアルコールをとりすぎない

こうした工夫で、症状が軽くなる方もいます。

症状が強い場合には、医師の判断で、

・鎮痛薬
・低用量ピル
・漢方薬
・抗うつ薬(SSRI)

などが使われることがあります。

最近のガイドラインでも、生活改善と薬物療法を組み合わせながら、無理なく続けることが勧められています。[1][2]

鍼灸は役立つの?

鍼灸は、PMSに対する補助的な方法として用いられることがあります。

複数のランダム化比較試験をまとめた解析では、鍼治療を行った群は、無治療や本物に似せた偽の鍼治療、薬物療法(黄体ホルモン製剤や抗不安薬)などの対照群と比較して、症状の改善において優れていたと報告されています。[3]

鍼治療がPMSの症状に影響する仕組みについては、まだ十分に解明されていません。
痛みやストレスなどに関わる神経系の働きが関与している可能性などが研究されていますが、特定の作用機序が確立しているわけではありません。

鍼治療の結果、イライラ、不安感、肩こり、下腹部の張り、だるさ、などが軽くなったと感じる方もいます。

ただし、この解析に含まれた研究の多くは、参加者の振り分け方法や盲検化(本物の治療か偽の治療かを分からなくする工夫)など、研究の質に課題があると評価されており、効果には個人差があります。より厳密に設計された研究が今後必要とされています。[3]

鍼灸だけでPMSを完全に改善できるとは限らないため、標準的な医療を基本としながら、補助的に取り入れることが大切です。

受診の目安

次のような場合は、婦人科や医療機関への相談をおすすめします。

・症状が年々強くなっている
・仕事や学校に支障が出ている
・気分の落ち込みが強い
・イライラや不安で人間関係に影響が出る
・月経と関係なく症状が続く
・市販薬で改善しない

無理に我慢せず、早めに相談することが大切です。

まとめ

月経前症候群(PMS)は、月経前に心や体にさまざまな不調があらわれる状態です。[1]

女性ホルモンの変動に加え、ストレスや生活習慣なども関係していると考えられています。

治療の基本は、生活習慣の見直しと必要に応じた医療的サポートです。[1][2]

鍼灸は、自律神経や体の緊張を整える補助的な方法として役立つ可能性がありますが、そのエビデンスにはまだ質的な限界があります。[3]

症状を我慢しすぎず、自分に合った方法を医師や専門家と一緒に見つけていくことが大切です。

【脚注一覧】

[1] 公益社団法人日本産科婦人科学会「月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)」産科婦人科用語集・用語解説集(改訂第4版), 2018/日本産科婦人科学会ウェブサイト患者向け解説.(PMSを「月経前3〜10日の黄体期のあいだ続く精神的あるいは身体的症状で、月経発来とともに減退ないし消失するもの」と定義。さまざまな症状が月経前に3〜10日間ほど続くと記載)

[2] 日本産科婦人科学会 女性ヘルスケア委員会(編)「月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療指針」2023-2024年度作成/『産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2023』日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会, 2023;190-193.(PMSの診断には米国産科婦人科学会(ACOG)の診断基準、PMDDの診断には米国精神医学会のDSM-5-TR診断基準を用いるとする記載。診断には月経2周期にわたる症状日誌の記録が推奨されている。思春期においてもPMS・PMDDが発症しうることにも言及)

[3] Kim SY, Park HJ, Lee H, Lee H. Acupuncture for premenstrual syndrome: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. BJOG. 2011;118(8):899-915. doi:10.1111/j.1471-0528.2011.02994.x.(10件のRCTを対象としたシステマティックレビュー・メタ解析。すべての対照群(無治療・偽鍼・薬物療法)と比較して、鍼治療は有意に優れていた(8試験の統合、リスク比1.55、95%信頼区間1.33-1.80)。黄体ホルモン製剤・抗不安薬との比較でも鍼治療が優れ(4試験、リスク比1.49、95%信頼区間1.27-1.74)、偽鍼との比較でも有意な症状改善を認めた(2試験、リスク比5.99、95%信頼区間2.84-12.66)。重大な有害事象は認められなかった。ただし、含まれた研究の多くは、無作為化の手順、割り付けの隠蔽、盲検化などの点で、バイアスのリスクが高いと評価されており、著者らは「有望ではあるが、方法論的な欠陥がエビデンスを弱めている」と結論づけている)

・これらは、お知らせブログの過去の記事を転載したものです。
・過去の記事のため、一部内容を加筆・修正しています。
・2026年8月:脚注をAIを用いて追加しました。