撚鍼法は、古く中国から日本に伝わった鍼の技術です。

現在では管鍼法が広く使われていますが、撚鍼法を行う人は少なくなっています。その理由の一つは、習得に時間がかかり、高い技術が必要だからです。

管鍼法は鍼を素早く刺しやすいという利点があります。一方で、古くから重視されてきた皮膚への繊細な刺激を活用する技術は、撚鍼法の方が豊かに残されていると考えられてきました。この皮膚への働きかけを、古人は「腠理肌膚の術」と呼んでいました。

そのため《杉山真伝流》では、厚みがあり重い鍼管を用いたり、管散術や細指術を取り入れたりして、管鍼法で失われやすい技術を補う工夫を行っていました。


1.撚鍼法に適した鍼尖

管鍼法で使われる鍼尖は、杉山和一が考案した「松葉」と呼ばれる形です。

一方、撚鍼法では、それより少し鋭い鍼尖が適しているとされています。

柳谷素霊は、この形を便宜上「柳葉形」と呼んでいます。

現代の中国製、特に香港や台湾で作られた鍼にも比較的鋭い鍼尖のものが見られます。

そのため、

  • 管鍼法には松葉形
  • 撚鍼法には柳葉形

が適していると考えられていました。


2.撚鍼法の押手

管鍼法に押手があるように、撚鍼法にも操作しやすい押手の形があります。

押手には、

  • 刺鍼を行いやすくする
  • 痛みを少なくする

という目的があります。

代表的な形には、

  • 満月型
  • 半月型
  • 筒立て
  • 曇り立て

などがあります。

また、中国古典に記されている「摂爪の法」の形を用いることもあります。

どの形を選ぶかは、

  • 患者さんの性別
  • 体格
  • 肌質
  • 病気の状態
  • 刺す部位
  • 刺鍼の目的(補法・瀉法など)

などによって変わります。


3.鍼尖を皮膚に接触させる方法

撚鍼法では、鍼尖が皮膚に触れた瞬間から施術が始まると考えられています。

藤井秀二博士による「小児鍼」の研究では、「無痛接触鍼」が自律神経に良い影響を与えることが報告されています。

そのため、鍼尖は無理に押し込まず、まず皮膚に軽く接触させます。

この段階でも、人によっては

  • 重く感じる
  • 冷たく感じる
  • 電気が走るように感じる

ことがあります。

さらに、

  • 毛穴が立つ
  • 汗が出る
  • 体が温かくなる

といった反応が現れる場合もあります。

脈拍や体温、血圧に変化が見られることもあるとされています。

接触させたまま二〜三呼吸ほど待ち、その後、ごく軽い力で刺入を始めます。

強く押してしまうと刺激が過剰になり、

  • 皮膚が緊張する
  • 筋肉が硬くなる
  • 鍼が入りにくくなる

ことがあります。

また、痛みを感じる場合には無理に刺さず、体が鍼を受け入れやすい状態になるのを待ちながら、少しずつ刺入していきます。


4.撚鍼法での鍼の持ち方

撚鍼法では、鍼を「撮む」ことが大切だとされています。

基本的には鍼柄を持ちます。
(特殊な刺法の時には鍼体を持つこともあります)

鍼体を直接つまむと、

  • 鍼先の感覚がわかりにくい
  • 必要以上の力が加わる
  • 痛みの原因になる

ためです。

刺入するときは、鍼柄を持ち、鍼のしなりよりも弱い力で操作します。

「撚る」とは鍼を回転させることではなく、軽くひねるような操作を指します。

鍼柄の一点を半回転ほど動かす程度が理想とされ、

  • 余計な刺激を防ぐ
  • 皮膚筋肉の収縮を防ぐ
  • 渋鍼(刺抜困難)を防ぐ

と考えられています。


5.刺鍼運手

撚鍼法での刺鍼の方法は、古くから次のように伝えられています。

まず左親指の爪で刺鍼部をなでて、左の拇指と中指を合わせて穴上に置きます。

次に鍼尖を目的の位置に当て、左中指で鍼口押さえて、右手の示指と拇指で鍼柄を持ちます。

その後、鍼を軽く撚りながら少しずつ刺入していきます。

抜鍼するときは、一度に引き抜かず、少しずつ引き上げながら持ち直し、中指で鍼口を推し揉みます。

杉山和一検校は、

撚りの技術が刺鍼の基本であり、補法・瀉法の使い分けや手の柔軟な操作を身につけることが重要である、

と言っています。

また、『霊枢・九鍼十二原』には、

「毫鍼は蚊や虻が刺すように静かに、徐々に刺し、少し留める」

という記述があります。

これは、急いで刺すのではなく、患者の反応を観察しながらゆっくりと刺入し、体の変化を確かめながら進めることの大切さを示しています。


註 坂井梅軒の横刺法

坂井梅軒は『鍼術秘要』の中で、

「直刺より横刺がよい」

と述べています。

坂井梅軒によれば、直刺では病経に十分働きかけられない場合がありますが、横刺では鍼の長い部分を利用できるため、より広い範囲に作用すると考えられていました。

方法としては、押手の拇指と示指で皮膚を軽くつまみ、その間に鍼尖を置いて、皮膚と平行に近い方向へ刺入します。

この考え方は、『霊枢・官鍼篇』にある

「刺鍼は皮を引いてから刺す」

という記述にも通じています。

現在でも、鍼管を使わない鍼家によって行われている刺鍼法の一つです。


参考文献:柳谷素霊『鍼灸の実技』(昭和三十四年)